ええ~、毎度おなじみチリ紙交換です…

そんな訳で2日目の収入は0円……。

3日目…。朝一番から住宅街の細い路地をユックリ、ユックリ車を進ませながら、"ええ~ 毎度おなじみちり紙交換です。古新聞古雑誌などございましたらお知らせ下さい。チリ紙トイレットペーパーと交換いたします…" 
すると結構アチコチから声がかかります。順調に作業をこなしているとトラックの荷台に新聞がたまっていきます。 
妙に嬉しい気分になりましたね。若いから体も元気だし、とても楽しく作業を進められたように記憶しています。 
夕方近くにはトラックに山積みのように新聞が集まったので、切り上げて会社に戻りました。

夕方近くになると方々から皆会社に戻ってきます。ちょっとしたラッシュです。
その喧騒の中で集めて来た新聞の重量を測ります。
先ずトラックごと測ることの出来る機械の上に乗ります。そして新聞を全部おろして、空のトラックを測ります。その差が今日集めてきた新聞の量になります。
その日は1,000キロ近くありました。最初の頃に新聞1キロ40円と書きましたが、それはチリ紙交換の創世記の話で、僕が始めた頃は1キロ8円でした。以前誰かがビックリしてコメントをくれましたが、そうたいしたものではありません。
トラックのレンタル代が1日1,500円ぐらいだし、チリ紙とかトイレットペーパーとか新聞を縛る紐の束とか合計すると500円ぐらいは会社から買います。だからその日の収入は6,000円くらいでしょうか。
そんなことよりも1,000キロ近く集めてきた新聞を60キロくらいずつの束に纏めて、縄で縛らなくてはいけません。
この作業がとても大変なものでした……。

60キロの束…。新聞を4つ折にしてあごの高さくらいまで積み上げます。すると、よほど小さい人でない限りは約60キロくらいになるそうです。
そうして、ここからが肝心なのですが、積み上げた新聞紙の束を、あごで地面にぐっと押し付けます。
想像してみてください。 きゅっとあごで押し付けるんですよ…。
そして、あごを手前に押付けながら引きます。
すると新聞紙の束が手前に斜めにかしがって、地面との間に隙間が出来ます。その隙間に素早く両手に持った縄を、すっと入れます。 入れるって言うよりも新聞紙の底におきます。
理解できますか? どういう状況か。
そして、両手に持った縄をあごを当てている新聞紙の面で、きつく縛ります。そして新聞の束を90度動かして、残りの縄をまた底に通して、再度あごの所で固く縛ると完成です。
言葉にすると簡単なのですが、始めのうちは、これが至難の業なのです。 
先ず最初に、あごの高さに積んだ新聞を、あごで地面に押付けて手前に引いた段階で、新聞の山はぐにゃぐにゃと崩れていきます。 何度やってもへにゃへにゃと崩れていきます。 

横には新聞紙が1,000キロ近くもあるし……。
何度も何度もやり直すしか道はありません……。

すると自分の仕事を終えた周りの先輩たちが見かねて手伝ってくれました。
そうやってその日は3時間くらいかけて、何とか60キロの束に全て纏めることができました。 
最後の10束くらいは自分の力で出来るようになっていたと思います。 
何せ36, 7年前のことなので、僕の記憶も正確ではないかも知れませんが……。
指は固まってしまうし精神的にもすっかりへこたれて、もう泣きたいくらいでした……。

泣きたい気持ちをぐっと堪えてアパートに帰りました。
もう時間は夜9時くらいになっていました。真っ暗です。 
当時住んでいたアパートの前には、神田川(多分)が流れていました。 部屋に入る前にあてども無く流れる川をじっと見つめていた記憶が鮮やかに蘇ってきます。
あ、あそこに魚がいる……。月明かりに小さな魚が2, 3匹照らし出されていました。可愛いなあ…。
と思った瞬間我に返り、さあこれから練習しなくちゃと思い、部屋に入りました。 
タバコに火をつけ、一服二服……。

ふぅっとけむりを吐き出すと、少しづつずつ気持ちが落ち着き、リラックスします。
そしてギターを持って弾こうとすると手が固まってて、右手はピックも満足にもてないような状態でした。
左手は半分曲がったままの状態で、とてもギターを押さえるどころではありません。
あ、そうだ! こんな時は、昔何かで見たことがあるぞ。 洗面器にお湯を入れて指を温めるんだ! 
そうだ! あれをやってみよう…。

早速お湯を沸かし洗面器に入れ、20分ぐらい指をつけてほぐす運動をしました。
すると感覚も戻ってきて何とかギターを弾き始めることができました。
よおし、がんばるぞ! ……

青春の1ページです。
                                   (続く)

 

 

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