北海道阿寒郡阿寒町大字仁仁志別

少年とやまべだけが存在している……。

大自然の中の静寂…。 
まるで、自然と一体化しているような錯覚に 陥るくらいの静けさ…。
潜在意識にまで届くような静寂……。 

あのような感覚を以後感じたことはありません。 
今思えば非常に貴重な体験だったのでしょう。 

秋も深まったある日、 
何時ものように川釣りを楽しんでいました。
夢中になって、上流へ上流へと進んでいくと 一瞬 圧倒されるような場所に出ました。
川は大きくカーブしていて、水はゆっくり流れています。
そのカーブの内側の土手の部分は深くえぐられて 洞穴のようになっていました。
水深は2メートル近くもあったでしょうか。川幅は5メートルくらい。足場は砂地になっていて……。
子供ながらにも この場所は何か厳かな雰囲気がするなぁ…と思いました。 
釣り糸をその洞穴の方へ2,3度流し入れてみました。
   
すると!! 
ものすごい衝撃が手に伝わってきました。
ガクーーーーーン!!! 
な、なんだ!? 
夢中で竿を持ち上げました。
川底でやまべの白い腹がピカッと光りました。
でかい、これはでかいぞ!
   
いつものように簡単に竿を川からあげる事が出来ません。
そのやまべは洞穴の奥のほうへ逃げようと必死です。少年も必死で、川上のほうへ引き上げようとします。
少年とやまべの闘いは、5,6分も続いたでしょうか。
いや、もしかしたらもっと長かったのかもしれませんが、やっとの思いで、そのやまべを手元に引き上げて 左手で握りました。
その瞬間、白子がぴゅーっと噴出したのです。
初めての経験でした。
今思えば可哀想なことをしたと思うのですが、その時は釣り上げた充実感で いっぱいだったように記憶しています。

通常やまべの大きさは15~20センチ位なのですが そのやまべは40センチくらいありました。 
きっとその洞穴の主だったのではないでしょうか。 

最初にその場所に出た時の厳かな感じと 主のようなやまべと 何か関係が有るのかもしれません……。


47年経った今も忘れることが出来ない感動的な出来事です。

                                     (続く)

 

 

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