北海道阿寒郡阿寒町大字仁仁志別
あれ~ 変だなあ…。
その汽車は函館本線で、函館から札幌、帯広、釧路と 進行して行きました。
車中で、夕張からどんどん遠ざかっていくのを 見てはいるのですが、何せ子供で、お金も持ってないし、何をどうしていいのかさえ 分かりませんでした。
そのおじさんは、夕張の家に遊びに来ている時は、父と母と楽しそうに話していると思っていましたが、 実際は非常に無口な人でした。 二人で旅行している間も、殆ど 会話がありませんでした。
今になって思うと、父と母と楽しそうに話していた時、 話しかけるのは 父と母だけで そのおじさんはただ、頷いているだけだった様な気がします。
そんな訳で、さしたる会話も無いその春休みの旅行は 僕にとっては楽しいものではありませんでした。
汽車が釧路に着きました。
そこから別の汽車に乗り換えて、阿寒湖の方へ向かい、山花駅という所で降りました。
僕にしてみたら、見るもの全てが初めての物ばかりで 心境穏やかでありませんでした。
釧路から阿寒に向かう車中で、 旅行の間 殆ど話すことのの無かった おじさん……柘植 広(つげ ひろし)が ぼそぼそっと僕に言いました。
「信義、今日からお前は、うちの子になるんだよ」
(続く)