北海道阿寒郡阿寒町大字仁仁志別

  夕張に帰りたい…… 


常日頃おばあちゃんから
生みの親より育ての親、人間は 育ててくれた親の恩を忘れてはいけません」 と一方的に言われ続けていました。
子供心にも『夕張に帰りたい』なんて、絶対に言ってはいけないと思っていました。 

ある日、安子の実家の妹(18歳くらい)が遊びに来た時のことです。

僕の部屋に入って来た安子の妹は、言いました。
   
 「信義くん、夕張に帰りたくない?」 
 『ううん、帰りたくないよ』 
 「本当? ほんとは帰りたいんでしょ?」 
 『帰りたくないよ・・・』 
 「誰にも言わないから本当のこと言ってごらん」 
   
と何度も優しそうに言いました。

この人は優しい人なんだ。僕の味方かもしれない…そう思いました。
身構えていた気持ちも解けて、ポツリと、小さい声で
   
 『うん、かえりたい……』 
   
と言って涙ぐみました。
すると彼女は部屋から出て行きました。

すぐにおばあちゃんに呼ばれました。 
   
 「信義! こっちに来なさい!」 
   
おばあちゃんのところに行くと 
   
 「ここに座りなさい」 
   
おばあちゃんの前に正座をすると おばあちゃんはいつもの低い声で言いました。
   
 「信義、夕張に帰りたいって言ったそうだね。
  生みの親より育ての親、何度言ったら解かるのですか!
」 



人間として、裏切りを受けたと感じた、初めての経験でした……。


                                   (続く)

 

 

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